天地人研究所 株式会社
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中学〈理科〉の「大胆(で無謀)な移行措置」の予想
■ 新指導要領を大胆に前だおしする移行措置
文部科学省は、2008年(平成20年)4月18日に開催された〈中央教育審議会初等中等教育分科会(第60回)・教育課程部会(第4期第20回)〉合同会議の資料2-1「学習指導要領について」の16ページ「新学習指導要領の移行措置(前倒し実施)について」で、
算数・数学および理科については、完全実施の際に円滑に移行できるよう新課程の内容を大幅に追加して指導する。
【授業時数の増加や教材提供を行い、実質的に新課程に移行】
と表明しました。このように「大胆な移行措置」の中身は、具体的にどうなるのでしょう。文部科学省の自由度が高いので困難が大きいのですが、あえて予想してみましょう。
なお、「消極的な移行措置」は、「必要最小限の移行措置の予想――中学校〈理科〉」に示すようになります。
また、「積極的な移行措置」は、「積極的な移行措置の予想――中学校〈理科〉」に示すようになります。
■ 「大胆な移行措置」の基本方針
「大胆な移行措置」は、「実質的に新課程に移行」と称するからには、次のような基本方針にもとづいて行われるのではないでしょうか。
- 2009(平成21)年4月から中学の全学年に「新指導要領に最大限近い内容」を適用する。
- そのために、2009(平成21)年4月から中学2年と3年の授業時数を週1コマずつふやし、1年が週3コマ、2年と3年が週4コマにする。
「新指導要領に最大限近い内容」を適用するために、文部科学省は、教科書の欠落を補う教材を製作し、生徒全員に提供します。(このことは、上の引用から読み取れます。)
充分な学習効果をあげるためには、教科書に加えて、副教材(練習問題集・資料集など)も必要です。また、授業時数をふやすためには、それに相応する教員数を確保する必要があります。――しかし、これらについての対策は、現時点(2008年4月20日時点)では不明です。
■ 2009年度(平成21年度)の「大胆な移行措置」の内容
上の基本方針に基づく場合、2009年度(平成21年度)の中学理科の移行措置は、具体的に次のようになります。
【中学1年】
- 新指導要領をそのまま適用します。
具体的には、旧指導要領の中学1年での学習内容に対して、
- 物理の領域
-
「力の大きさとばねの伸びの関係」「質量と重さの違い」「水の圧力」「浮力」を追加する。
「力がつり合う条件」を削除する。
- 化学の領域
-
「代表的なプラスチックの性質」「物質の溶解の粒子モデル」「質量パーセント濃度」「溶解度曲線」「物質の状態変化の粒子モデル」「粒子の熱運動」を追加する。
「酸とアルカリ」「中和と塩」を削除する。
- 生物の領域
-
「種子をつくらない植物のなかま」「胞子」を追加する。
削除はなし。
- 地学の領域
-
「断層」「しゅう曲」を追加する。
削除はなし。
【中学2年】
- 新指導要領をそのまま適用します。
具体的には、旧指導要領の中学2年での学習内容に対して、
- 物理の領域
-
「電力量」「熱量」「電流が電子の流れであること」「直流と交流の違い」を追加する。
削除はなし。
- 化学の領域
-
「酸化と還元」「化学変化にともなう熱の出入り」を追加する。――これらは中学3年から降りてきました。
「周期表(原子には多くの種類があること)」を追加する。
削除はなし。
- 生物の領域
-
「細胞」「植物細胞と動物細胞の違い」を追加する。――これらは中学3年から降りてきました。
「無セキツイ動物のなかま」「生物の変遷と進化」を追加する。
削除はなし。
- 地学の領域
-
「水が大気・海・陸を循環していること」「気圧や前線と風のふき方との関連」「日本の天気の特徴と日本付近の気団」「地球の大きさや大気の厚さ」「地球規模での大気の動き」を追加する。
削除はなし。
【中学3年】
- 新指導要領を適用するとともに、さらに、新指導要領で中学3年から2年に降ろされた内容も学習します。
具体的には、旧指導要領の中学3年での学習内容に対して、
- 物理の領域
-
「力がつり合う条件」「力の合成と分解」を追加する。――「力がつり合う条件」は中学1年で簡単に学んでいますが、「力の合成と分解」の基礎として、より詳しく学習し直します。
「自由落下」を追加する。
「仕事」「仕事率」「仕事の原理」を追加する。
「物体のもつエネルギーの大小は、それが他の物体にする仕事の大小ではかられること」を追加する。
削除はなし。
- 化学の領域
-
「水溶液に電流が流れるものと流れないものがあること」「原子のつくり――電子と原子核(陽子・中性子)」「イオンのでき方」「イオン式」を追加する。
「化学電池の電極で起こる反応」「代表的な電池」を追加する。
「酸と水素イオン」「アルカリと水酸化物イオン」「pH」「中和反応で水と塩ができること」「水に溶ける塩と溶けない塩」を追加する。――「酸とアルカリ」「中和と塩」は中学1年で簡単に学んでいますが、イオンと関連させて、より詳しく学習し直します。
「酸化と還元」「化学変化にともなう熱の出入り」は、削除せず、旧来どおり学習する。――これらは新指導要領で中学2年に降ろされましたが、この年度の中学3年は前学年で学んでいないため、ここで学習します。
- 生物の領域
-
「遺伝の規則性(分離の法則)と遺伝子」「遺伝子の正体がDNAという物質であること」「遺伝子が変化すると形質が変化すること」を追加する。
「細胞」「植物細胞と動物細胞の違い」は、削除せず、旧来どおり学習する。――これらは新指導要領で中学2年に降ろされましたが、この年度の中学3年は前学年で学んでいないため、ここで学習します。
- 地学の領域
-
「月の公転と見え方」「日食・月食」「太陽系に惑星以外の天体が存在すること」「銀河系」を追加する。
削除はなし。
- 自然と人間と科学技術の領域
-
「熱の伝わり方」「エネルギーの利用効率」「放射線の性質と利用」を追加する。
「地球の温暖化」「外来種」「地球規模でのプレートの動き」を追加する。
削除はなし。
■ 2010年度(平成22年度)と2011年度(平成23年度)の「大胆な移行措置」の内容
中学1年と2年は、2009年度(平成21年度)と同じです。
中学3年は、新指導要領で中学3年から2年に降ろされた内容(上の表で太字の内容)を削除し、新指導要領をそのまま適用します。
■ 「大胆な移行措置」の是非
この「大胆な移行措置」によれば、2009年度(平成21年度)から〈実質的に〉新課程に移行することになります。しかし、これを現場で実際に行うためには、(教員数の手当てのように生徒にとって間接的なことを考慮の外において、生徒が手元で直接使うものだけを考えても、)
- 教科書の欠落を補う教材として、2009年(平成21年)4月までに、100〜200ページの冊子(現行の4分冊の理科教科書の1冊分)が作成され、生徒全員に配布されなければならない
- 副教材(練習問題集・資料集など)が、2009年(平成21年)4月までに作成され、提供されなければならない
のですが、1(教科書に代わる100〜200ページの冊子を1年未満で作成・配布)は至難の技であり、2(副教材の作成・提供)は見通しがまったくたたないと思われます。
このように実現の保証のない移行措置は、「大胆」を通りこして、「無謀」です。天地人研究所(株)は、2008年3月6日に提出したパブリックコメント「中学理科の移行措置の実施方法について」で述べているように、2009年度(平成21年度)の中学1年から始めて学年進行で対象学年を広げていく「積極的な移行措置」を推奨します。
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