文部科学省は、2008年(平成20年)4月24日に移行措置の案(学習内容の案や授業時間数の案)を公表しました。
さらに、この案へのパブリックコメントを募集しています(4月25日から5月24日まで)。
以下では、この案の小学〈理科〉部分について、内容を具体的に紹介するとともに、問題点を指摘し、対策を提案します。
この移行措置(案)は、次のような基本方針でつくられています。
「学習の欠落が起こらないようにするため」に必要な対策は、次の通りです;
小学4年 …… 「天気によって1日の気温の変化がちがう」を追加する。
小学5年 …… 「電磁石」を追加する。
「学習の重複が起こらないようにするため」に必要な対策は、次の通りです;
小学5年 …… 「てんびんとてこ」「物体の衝突」を削除する。
詳細はここをご覧ください。
もしこの基本方針によるとすれば、1年目=2009年度(平成21年度)は上の対策だけをして、2年目から(教科書は旧のままながら〈実質的に〉)新指導要領を始めることになります。――その場合、各年度に適用される指導要領の新旧別は、次のようになります;
小学3年 | 小学4年 | 小学5年 | 小学6年 | |
---|---|---|---|---|
2009年度(平成21年度) | 旧のまま (週2) | 旧を修正 (週2.6) | 旧を修正 (週2.7) | 旧のまま (週2.7) |
2010年度(平成22年度) | 新 (週2.6) | 新 (週3) | 新 (週3) | 新 (週3) |
( )内は授業時間数=コマ数。新指導要領の実施が、新教科書のできる2011年度(平成23年度)より〈実質的に〉1年早まります。
しかし、これでは、移行措置の1年目は「小学3年と6年は何もせず、4年と5年にわずかの変更があるのみ」となります。もっと踏みこむことができるのではないか。上の基本方針に加えて、もう一つ
を継ぎ足して2階建ての基本方針にしよう。……
この2階部分を継ぎ足したことにより、各年度に適用される指導要領の新旧別は、次のようになりました。
小学3年 | 小学4年 | 小学5年 | 小学6年 | |
---|---|---|---|---|
2009年度(平成21年度) | 新 (週2.6) | 新 (週3) | ほぼ新 (週3) | ほぼ新 (週3) |
2010年度(平成22年度) | 新 (週2.6) | 新 (週3) | 新 (週3) | 新 (週3) |
( )内は授業時間数=コマ数。新指導要領の実施が、小学3年と4年では〈実質的に〉さらに1年早まります。小学5年と6年も「ほぼ新」という形ながら、〈実質的に〉さらに1年早まります。
2009年度(平成21年度)の5年と6年は、授業時間数を新指導要領と同じにまでふやしても、「新」ではなく「ほぼ新」とならざるを得ません。それは、新指導要領で下の学年に降りる内容(小学5年では「天気によって1日の気温の変化がちがう」、6年では「電磁石」)をやりつつ、新しい学習内容を全部一気に追加するには、なお授業時間数が不足するからです。
文部科学省の公表した移行措置(案)を具体的に示すと、次のようになります。
●2009年度(平成21年度)の移行措置(案)――小学〈理科〉
●2010年度(平成22年度)の移行措置(案)――小学〈理科〉
なお、新たに追加される内容は教科書に載っていないため、補充資料が作られ、児童全員に配布されます。
基本方針の2階部分(上の基本方針2)を継ぎ足すに当たっては、授業時間数に配慮して、小学5年と6年を「ほぼ新」にとどめるなど、細かい目配りがされています。
しかし、2階部分の存在そのもの、すなわち「2階部分を加える無理をしてまで、新指導要領の適用をいそぐ」のが正しいのかどうかには、疑問が残ります。
基本方針の1階部分により、すでに、新指導要領の実施が新教科書のできる2011年度(平成23年度)より〈実質的に〉1年前だおしされています。中庸をとれば、これくらいが落としどころでしょう。
2階部分を継ぎ足したために、現場は急激な変更を、すなわち「短期間での準備」と「最低限の準備をしただけで走りだすこと」をせまられることになります。準備期間をもう1年与えて、充分な準備を整えた上で、走りだせるようにする方がいいと思います。特に、今回は、(学習内容の削除が中心であった旧来の移行措置とは異なり、)新しい内容の付加が中心だからです。